2. 「ムダに時を使うなと、時計怒らん」
2.
「ムダに時を使うなと、時計怒らん」
(7巻139ページ)
The clock upbraids me with the waste of time
「時計が叱っているわ、時間をむだにするなって」
(『十二夜』3幕1場88ページ)
in Karakuri
1番のセリフに続く、初戦闘シーンでのセリフ。はべらせていた美女たちは実はギイを殺しにきたオートマータ。体中から機関銃を出し今にも襲いかかってきそうな人形たちを前に、ギイは落ち着いた様子で「僕の仕事を手伝え」と鳴海に依頼する。事情が何もわからない鳴海は「やなこった」と即答し、逃げ出そうとしてしまう。そんな鳴海の様子を見てギイは呆れたようにシェイクスピアを引用した。
in Shakespeare
このセリフはシェイクスピアが書いた喜劇の中でも傑作と名高い『十二夜』からの引用である。『ハムレット』や『ロミオとジュリエット』等、悲劇の印象が強く難しいと思われがちなシェイクスピアだが、実はコメディに分類される作品が13作品もある。現在のコントのような軽快でバカバカしい内容の物もあり、肩肘はらずに笑える作品が今も残っている。
上のセリフはオリヴィアという令嬢が、男装している少女ヴァイオラに惚れ込んでしまい躍起になって口説いている時のセリフだ。時計が鳴った音を聞き、「もう行かなければ」とヴァイオラを焦らそうとするのだが、当のヴァイオラはどこ吹く風。ヴァイオラになんとか振り向いてほしいオリヴィアは、帰ろうとするヴァイオラをまた引き止め「私のことをどうお思い?」と聞きだそうとする。積極的なオリヴィアの姿勢が可愛くもあり、ちょっと怖くもある場面である。
『十二夜』という戯曲のストーリーを説明するのは難しい。ヴァイオラは船で難破して双子の兄と離れ離れになり、男の子に変装して公爵オーシーノーに仕えることにする。そこでオーシーノーに密かな恋心を抱くのだが、彼はオリヴィアに夢中、そしてオリヴィアはオーシーノーからの使いで来たヴァイオラに一目惚れしてしまう。単なる三角関係といえばそうなのだが、シェイクスピア独特のセリフ回しや魅力的な脇役たち、全体に流れるどこかメランコリックなトーンが人気でシェイクスピア喜劇の中でも上演の機会は多い。
特に見ものなのは、オリヴィアに仕える執事、マルヴォーリオを罠に嵌める「マルヴォーリオいじめ」と言われる脇筋。頑固で居丈高な物言いをするマルヴォーリオに反感を抱いた3人組が彼を騙して奇妙な行動を取らせ笑いものにするというストーリーだ。3人組に用意された偽手紙を読み騙されるのだが、その内容というのがヴァイオラからマルヴォーリオへのラブレター。曖昧にぼかされた内容にいいように踊らされていくシーンは役者の演技力が試される笑い所になる。先に紹介したあらすじと関係ないようだが、シェイクスピアの劇ではこのようなサブプロットが存在する物がほとんどである。本筋を辿りつつ賑やかな脇筋を楽しみ、ラストでは二つの筋が見事に合わさって完結する。
もし興味を持っていただけたなら、1996年公開トレバー・ナン監督の映画を見ていただきたい。『英国王のスピーチ』や『レ・ミゼラブル』等に出演したヘレナ・ボナム=カーターがオリヴィアを演じている。多数の名優たちが共演する非常によい映画なのだが、残念ながらDVDは現在絶版。渋谷等の大きなTSUTAYAではレンタルできるようなので是非見てみてほしい。