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『からくりサーカス』シェイクスピア引用文解説集

2013年秋の文学フリマにて無料配布いたしました「『からくりサーカス』シェイクスピア引用文解説集」をネット用にまとめ直しました。

3. 「どんな毒舌も馬鹿者には効果なし」

3.

「どんな毒舌も馬鹿者には効果なし」

107ページ)

 

a knavish speech sleeps in a
foolish ear.

「とほうもない悪口も阿呆の耳には入らぬものだ」

(『ハムレット43166ページ)

 

in Karakuri

 オートマータ破壊のため、旅を続けるギイ、鳴海、ルシール。柔らかい石を探すためローエンシュタイン大公国にやってきた3人は石を宿している可能性のあるエリ公女に近づいた。パレード中のエリ公女を見張る鳴海たちの前で、オートマータがエリの誘拐を謀る。ヘリコプターに乗り込んだオートマータとエリを追い、見事エリを取り返した鳴海だったが飛行中のヘリから飛び出して一言、「しまった!!空の上だった」離陸していることも忘れて飛び出した鳴海たちを救ったのはギイだった。このセリフはその時のギイが鳴海の馬鹿さに呆れて言放った言葉。良くも悪くも、回りの言葉を聞かずに行動が先立つ鳴海には耳の痛いセリフだろう。

 

In Shakespeare

 シェイクスピアの四大悲劇に数えられ、知名度でもトップクラスの悲劇『ハムレット』。父親を殺し、女王と王位を奪った叔父に復讐する王子ハムレットの物語だ。

 上のセリフはハムレットが狂ってしまった振りをしながら、ローゼンクランツとギルデンスターンと会話するシーンから引用されている。この2人はハムレットの旧知の友人であるが、憎き敵クローディアスからの指示でハムレットの狂気の原因を探るために遣わされたり、叔父と誤り大臣ポローニアスを殺してしまったハムレットを捕らえにきたりとクローディアスの言いなりになっている。そんな2人をハムレットは「国王の寵愛、恩賞、権力、なんでも吸いとるスポンジだ」と中傷するが、狂気の言葉としか思わないローゼンクランツは「おっしゃる意味がわかりません」と聞き流す。それに対してハムレットが口にするのが上のセリフである。

 『ハムレット』はシェイクスピア劇の中でも難解と言われながら、何度も何度も上演されている。特に見る物の印象に残るのは、ハムレットが自らに問いかける独白の数々だ。父親の死後、すぐに叔父との婚姻を結んだ母親を許すべきか許さざるべきか、叔父を殺すべきか黙って見過ごすべきか、殺すならどのタイミングでどうやって殺すべきか。王子ハムレットは戯曲の最初から最後まで悩み続け、その悩みの全てを語りつくそうとするかのごとく舞台の上で独白する。

「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」、「もろきもの、汝の名は女!」などの有名なセリフもこれらの独白の中で紡がれる。このハムレットの性格からロシアの小説家ツルゲーネフは「ハムレット型」と「ドンキホーテ型」という概念を生みだした。セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』の主人公のように思い立ったらすぐ行動、理想を追い求め、分別に欠く性格の人間を「ドンキホーテ型」と定めたのに対し、ハムレットのように中々行動に移さず、疑惑や思索にこもりがちな人物を「ハムレット型」と呼んだ。まさに世界文学史を代表する憂鬱屋がハムレットなのだ。

 

 個人的には悩んでばかりで、しかも思考の流れがわかりづらい『ハムレット』という戯曲は好きではなかったのだが、何度も鑑賞するうちにハムレットの心情の動きが少しづつ見えてきた。いや、見えてきたと思ったら、また見失って別の捉え方が浮かんできた。見れば見るほど謎が深まる戯曲『ハムレット』。何度でも、様々な劇場、演出、役者で見てもらいたい。