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『からくりサーカス』シェイクスピア引用文解説集

2013年秋の文学フリマにて無料配布いたしました「『からくりサーカス』シェイクスピア引用文解説集」をネット用にまとめ直しました。

5. 自ら飛び込む方が良い、手をこまねき待つよりも…

5.

自ら飛び込む方が良い、手をこまねき待つよりも…

1449ページ)

 

It is more worthy to leap in ourselves,
Than tarry till they push us.

いたずらに座して待つよりも、

みずから飛び込むほうが男らしい。

(『ジュリアス・シーザー55179ページ)

 

in Karakuri

 オートマータ撲滅の旅は続き、飛行機で上海へと飛ぶ途中のこと。乗客に紛れ込んだオートマータたちにギイたちは襲われる。刃物で切ったり突いたりすれば自爆する人形たちに攻められるが、鳴海の拳法で辛くもオートマータたちを撃破した。しかし、壊れかけたオートマータは人間の血液を求め、乗客の子どもに襲いかかる。咄嗟に鳴海が腕に仕込んだ剣でオートマータを貫き、ギイがその身とオリンピアを挺して爆発の被害を最小限に抑えた。満身創痍のギイはそれでも膝をつくことなくシェイクスピアのセリフを口にする。

 

In Shakespeare

 世界史に残る大事件、シーザー暗殺を描いた『ジュリアス・シーザー』からの引用である。『ジュリアス・シーザー』という名ではあるが、ブルータスを主人公として見るのが一般的だろう。ラストシーン近く、シーザー暗殺後に反逆者として追われ、戦争を起こすも最愛の妻ポーシャや戦友キャシアスを失い、なす術のなくなったブルータスが自らの最期を覚悟した時に口にした言葉が上のセリフである。この直後ブルータスは戦友たちに別れを告げ、自ら命を絶つ。理想主義で、常に潔癖を守り、高潔を保ち続けたブルータスの亡骸を見て、袂を分かったアントニーも「これこそが人間であった」と賞賛する。

ジュリアス・シーザー』といえば有名なのはシーザーが最期にこぼした「おまえもか、ブルータス!」の言葉だろう。ちなみにこれはシェイクスピアの創作ではなく、ローマの歴史家スエトニウスが遺したものとされ上演当時のイギリスでは既に有名な言葉だったようだ。原文でも“Et tu, Brute?” ラテン語で書かれている。シェイクスピア劇のほとんどはなんらかの原作(材源と呼ばれる)を持っており、この『ジュリアス・シーザー』もプルタークの『英雄伝』をもとにしてある。筋書きのほとんどが『英雄伝』の内容と一致するのだ。この戯曲はシーザー暗殺の話だが、シーザーが殺されるのはちょうどストーリーの中頃。その後は、民衆を説得するブルータスとアントニーの演説シーン、さらに両者の戦争と話が進んでいく。是非、通しで最初から最後まで見てもらえたらと思う。

 

 シーザーの腹心であり、シーザーを敬愛していたブルータス。彼は共和制を守りたいという信念によりシーザー暗殺を決意した。では、シーザーは悪人だったのか。それは個人によって決めることであるが、私はそうも言い切れないと思っている。独善的で敵も多いものの、戦争に勝ち続け領土を増やすシーザーは民衆たちにとってまさに英雄であった。ブルータスにとってシーザーとはそれを理解した上でも殺さなければならない存在だったのだ。強い信念を持ち、勇気を奮い起こし剣を抜いた暗殺者を描いたこの戯曲が私は大好きである。独裁を食い止めるために起きたシーザー暗殺。しかし結果として、この事件をきっかけにローマが独裁に進んでいったという事も興味深い歴史の皮肉である。