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『からくりサーカス』シェイクスピア引用文解説集

2013年秋の文学フリマにて無料配布いたしました「『からくりサーカス』シェイクスピア引用文解説集」をネット用にまとめ直しました。

8. 「心にありて美しきものは、優しき愛」

8.

「心にありて美しきものは、優しき愛」

2921ページ)

 

Shall hate be fairer lodged than gentle love?

美しい館にやさしい愛より憎悪が宿ってはいけないはず、

(『ソネット集』10番)

 

in Karakuri

 今までエレオノールに守られる存在だった勝が彼女に「もうぼくをまもってくれなくていいんだよ」と宣言する。本当に守られるべき存在はエレオノールであることを彼が理解したからだ。しかし、エレオノールはそんな勝の申し出の理由が分からない。これからどうすればよいかと戸惑うエレオノールにギイは「恋でもしてみたまえ」と声をかける。シェイクスピアの詩の一部を引用しながら。今更ではあるが実にキザである。

 

inShakespeare

 こちらの文は今まで紹介したものとはおそらく毛色が違う。戯曲ではなく詩からの引用なのだ。『ソネット集』とはシェイクスピアの最も有名な詩集で、全部で154編の詩が収録されている。基本的には「君」と呼びかけられる「美少年」への賛辞を歌った詩が多い。しかし、中盤以降になってくると「黒い貴婦人(Dark Lady)」と呼ばれる女性が登場し、「詩人」「美少年」「黒い貴婦人」の三者による三角関係が浮かび上がり読者の想像を掻き立てる。『ソネット集』には「このソネット集のただ一人の生みの親であるW.H.氏に、(中略)本書をこの世に送る」と献呈辞が添えられており、このW.Hとは誰かが今でも謎になっている。シェイクスピアと親しかった貴族か、劇団の少年俳優か。詩に書かれた「美少年」はこのW.H.なのか。いずれにせよ、極めてきわどく同性愛ともとれる愛情が歌いこまれているのがこの『ソネット集』だ。

 戯曲以上に馴染みがないだろうが、上演を待たずして触れられるという意味では詩のほうがとっつきやすくはあるだろう。特に「あなたをなにかにたとえるとしたら夏の一日でしょうか?」で始まる18番のソネットは代表的な物として一読する価値がある。夏の自然描写を交えながら「美少年」の美しさを歌っている。生き物が持つ美は全て時と共に色あせていくものだが、それを永遠に繋ぎ留める効果を詩に求めているのだ。こちらのソネット18番は映画『恋におちたシェイクスピア』や漫画『7人のシェイクスピア』でも効果的に引用されているのでチェックしていただければと思う。

 ちなみに、ソネットとはそもそもイタリアで生まれた詩の形式であり、14行で書くことや韻の踏み方等細かいルールが定まっている。ちょうど日本の俳句で字数が定まっており、季語をいれなければならないのと同様である。

 

 

 このページでは『ソネット集』を上のセリフの引用元として紹介したが、2004年の映画『ヴェニスの商人』のキャッチコピーとして「心に宿して美しいのは、憎しみよりやさしい愛」という文が載っている。これの元ネタはわからなかったが、今回紹介したソネットだと私は考えている。藤田先生はひょっとしたら、映画のほうから上のセリフを引用したのかもしれない。